リスキリングとは?注目される理由、導入メリット・事例まとめ
労働力人口の減少による業務の自動化や効率化のニーズの増大、凄まじい速度の技術革新、時代やニーズの変化に伴うビジネスモデルの変更など、企業を取り巻く環境は常に変化を続けています。
企業では、外部環境の変化に対応するとともに、変化に対応するための人の育成も同様に重要になっています。
今回は、リスキリングの内容や注目される理由、リスキリングを導入するメリット・導入事例などについて紹介します。
リスキリングとは?
リスキリングとは、新しい職種の仕事に就くためもしくは、現在の仕事に求められるスキルの大幅な変更に適応するための知識やスキルを習得することです。
近年は、ビジネスモデルの変革や技術革新などによって、仕事の内容や進め方が大幅に変わっており、人もそれに適応する必要があります。
また、今後はAIやロボットの発展・普及によって、これまで行っていた仕事が無くなったり、新しい仕事が生まれることが考えられており、常に学び続けることが必要とされています。
リスキリングとリカレント教育の意味の違い
リスキリングと似た意味の言葉にリカレント教育があります。
リスキリングとリカレント教育の意味の違いとしては、リカレント教育は、「働く→学ぶ→働く」というように働きながら学ぶのではなく、新しいことを学ぶ際に一度仕事から離れることが前提になっています。
一方、リスキリングは、新しく就く仕事もしくは今の仕事でさらに価値を創出するために必要なスキルを仕事から離れずとも学び続けることを指します。
学習の目的や方法などがリスキリングとリカレント教育の違いです。
リスキリングが注目されている背景
リスキリングが注目されている背景や理由を紹介します。
第4次産業革命に伴う技術変化に対応するため
世界経済会議(ダボス会議)にて、3年連続で「リスキル革命」と銘打ったセッションで「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」宣言が行われています。
その中で「第4次産業革命により、数年で8000万件の仕事が消失する一方で9700万件の新たな仕事が生まれる」と言われており、第4次産業革命に伴う技術の変化に対応した新たなスキルを獲得するために、2030年までに10億人により良い教育・スキル・仕事を提供するというイニシアチブが掲げられています。
政府が「人への投資」に力を入れているため
日本政府もリスキリングへの支援に力を入れ始めています。
2022年6月7日、日本政府は国際情勢の変化に対応し国内の課題解決をはかるための方針である「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)を発表し、この中で「人への投資と分配」も改革の1つに挙げられました。
2022年から2024年までの3年間に4000億円規模の予算を投じるなど、非常に力を入れています。
また、経済産業省が「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」を立ちあげ、厚生労働省の「教育訓練給付制度(専門実践教育訓練)」と連携して助成金を出す仕組みなども整備されています。
日本企業でもDX推進の必要性が高まっているため
日本企業では、労働力不足に対応した業務の効率化や業務パフォーマンス向上のために、DX推進が行われています。
ただ、DXを社内で推進するために必要な専門的知識・スキルを持った人材が不足しており、今後専門性が高い人材の採用を目指すのと同時に自社内でDX人材を育てることが必要とされています。
そのため、DX推進やそれに関わる知識やスキルを習得するために、リスキリングを導入する企業が増えています。
企業がリスキリングを推進するメリット
企業がリスキリングを推進することによって期待できるメリットや効果を紹介します。
業務の生産性向上
リスキリングを行い、従業員が業務に必要な知識やスキルを習得することによって、その知識やスキルをすぐに業務に活かすことで業務の生産性向上が期待できます。
将来的に必要なスキルや知識と現時点でも役立つスキルや知識の両方が習得できます。
社内人材育成に伴う新規採用コストの低減
社内でリスキリングによってDX人材やその他必要なスキルや知識を有する従業員が育つことによって、新規で専門的な知識を有する人を採用する必要性が低くなり、その分の新規採用コストが低減されます。
DX人材不足の懸念の低減
リスキリングによってDXを推進できる人材が育つ仕組みが出来上がることによって、DX人材が社内から不足するリスクを低減できます。
重要なことは、特定のメンバーのみをDX人材として育てるのではなく、DX人材が育つ仕組みを作ることが重要です。
学習する文化・習慣の醸成
リスキリングを社内で推進し、自分の業務に役立つ知識やスキルを習得することを多くの従業員が行えば、その取り組みが企業文化となり、従業員にも習慣として根付いていきます。
文化醸成や習慣化には、リスキリングを従業員任せにするのではなく、企業内に学習できる環境や仕組みを作ることが必要です。
リスキリング導入でのデメリット
リスキリングを企業に導入することによって考えられるデメリットを紹介します。
リスキリング導入の戦略や計画策定の負担が大きい
リスキリングを企業に導入する際、ただeラーニング導入や研修を実施すればよいという訳ではありません。
自社の事業領域やビジネスモデルからどのような知識やスキルを今後学んでいく必要があるのかを洗い出し、戦略や計画を立てる必要があります。
人事部門だけでなく、経営が主導して進めていく必要があるため、長い期間をかけて多くの工数が発生します。
内製でリスキリングの環境を全て整えることは難しい
リスキリングは、既に自社にある情報ではなく、新たな知識やスキルを習得するためのものなので、内製で環境を作るにしてもほぼ0ベースで作っていく必要があります。
自社で戦略や計画は策定しつつも、外部のリソースやサービスを活用して、環境を整えていくことが求められます。
従業員にも学びの時間確保の負担が発生する
リスキリングは、従業員に学び直し、新たな事を学ぶ時間を確保してもらう取り組みです。
リスキリングの時間確保のために既存の仕事の工数が圧迫されたり、残業時間が増えてしまっては本末転倒です。
リスキリングの時間を作るために、業務の棚卸しを行い効率化や自動化なども同時に進めていくことが求められます。
費用負担が発生する
リスキリングで外部のリソースやサービスを活用する場合は、費用が発生します。
従業員の人数が多い場合は、利用人数課金のサービスを利用するのであればそれだけ多くの費用負担が発生します。
戦略や計画を策定する中で、どれくらいのコストが発生するのかも予め試算しておくことが重要です。
リスキリングの導入方法・流れ
リスキリングを社内で進める際の方法や流れを紹介します。
リスキリングの方向性やゴールを設定する
まず始めに自社におけるリスキリングの方向性やゴールを設定します。
経営戦略・事業戦略を達成するためや企業におけるリスクや変化に対応するために今後従業員にはどのようなスキルや知識を習得してもらう必要があるのかを元に方向性やゴールを設定します。
ゴールと現状との差分を確認する
リスキリングにおけるゴールや方向性が定まったら、現状との差分を洗い出します。
具体的にどのような知識やスキルをどのレベル感まで習得すべきかがある程度明確になってきます。
リスキリングの戦略や計画に落とし込む
従業員が習得すべき知識やスキルがある程度明確になれば、ゴールを達成するための戦略や計画に落とし込んでいきます。
何年後にはどのレベル感まで達しておくべきかを決めていきながら、同時に必要な予算などについても試算しておきます。
社内にリスキリング導入の目的や内容を周知する
リスキリングを会社で取り組む際は、従業員に目的や内容をきちんと周知することが必要です。
なぜ自社でリスキリングを導入するのか、具体的にどういったことを行えばよいのかが不明瞭な状態では、従業員にリスキリングの取り組みは浸透しません。
必ずリスキリングの取り組みの前に社内周知を行いましょう。
従業員にリスキリングに取り組んでもらう
従業員にリスキリングに取り組む目的や内容についての周知が完了したら、実際にリスキリングに取り組んでもらいます。
この際に、従業員に計画的かつ自主的に取り組んでもらうために、1on1などでマイルストーンを設定しながら、業務に支障の無い範囲で進めていくことが必要です。
定期的にリスキリングの成果や取り組みを評価、見直す
リスキリングは導入して終わりではなく、定期的に成果や取り組み内容について評価し、適宜内容や方針を修正することが重要です。
少なくともリスキリングでマイルストーンを設定している特定の年やタイミングで振り返り・見直しを行いましょう。
リスキリングを進める上でのポイント・注意点
リスキリングを社内で進める上でのポイントや注意点について紹介します。
リスキリング導入前に目標やゴールを設定する
最近、多くの企業でリスキリングが流行っているから、とりあえず自社でもリスキリングに取り組みだしたという企業は少なくありません。
しかし、企業としての方向性や目標が策定されておらず、従業員にもその意図が共有されていなければ、企業として期待する効果を得られない可能性があります。
リスキリング導入前に社員に目的や内容について周知する
リスキリング導入の推進は経営や人事で行うべきですが、実際に実行してもらうのは従業員です。
従業員に目的や内容が十分に共有されていなければ、従業員からの理解を得られず、取り組み実施率が低い、なかなか思ったように進めないといったことが発生する可能性があります。
リスキリングが業務の負担や残業増加に繋がらないようにする
リスキリングは、今後仕事で求められるスキルや知識を習得する活動なので、重要度は高いものの、今の業務で成果を出すことも重要です。
今の業務を圧迫することやリスキリングの取り組みによって残業が極端に増えてしまうといったことが起こらないような業務の効率化や計画策定を行うことが重要です。
日本企業のリスキリング導入事例
日本企業におけるリスキリング導入事例を紹介します。
日立製作所のリスキリング導入事例
日立製作所では、人工知能(AI)を駆使して社員のリスキリングを促すシステムをグループ全体で導入しています。
AIが社員一人ひとりのスキルを把握し、将来的に必要になるデジタル知識や外国語の習得を促す仕組みで、アメリカのリンクトインが提供する1万6000の講座や英語を含む10言語の学習プログラムを受講できます。
みずほフィナンシャルグループのリスキリング導入事例
みずほフィナンシャルグループでは、外部の学習サービスの良質なコンテンツで最先端のビジネストレンドやサステナビリティ、ITデジタル、リベラルアーツなどに関する知識を全社員がいつでもどこでも学べるデジタルプラットフォームを従業員に提供しています。
その他、通信教育講座や資格取得の補助、各種学校への通学補助などの自己啓発支援制度なども導入しています。
武田薬品工業のリスキリング導入事例
武田薬品工業では、2022年10月から国内事業部門でのリスキリングの取り組み「データ・デジタル&テクノロジー(DD&T)アカデミー」を実施しています。
自ら手を挙げて選出された従業員が、元々所属していた部門を離れて、6か月間にわたりデジタル人財へのリスキリングに集中して、短期での成果実現を目指します。
トレーニングプログラムは、講師からの講義、e-learningでの自己学習、ワークショップなどを揃えているとのことです。
企業の中長期的な存続・成長のために、リスキリングに取り組もう
今回は、リスキリングの内容や注目される理由、リスキリングを導入するメリット・導入事例などについて紹介しました。
経営戦略や事業戦略の達成のためには、従業員の生産性を向上させていくこと、中長期的なリスク懸念を低減していくことが必要です。
リスキリングは、業務効率化と今後の変化に対応できる知識やスキルを習得できる取り組みです。
自社の方針や戦略に合わせたリスキリングの計画を作成し、企業が存続・成長し続けられる仕組みを作っていきましょう。